★☆ First Day

今朝は、まだ暑そうに冬服を着ている生徒たちが、
登校中からどこか興奮した面持ちで、
いつもは暗い表情も明るく輝いていた。

今日は、文化祭一日目。

文化祭は毎年同じように三日間執り行われ、
一日目は体育祭、
二日目は体育館での舞台発表、
三日目は校舎内での展示発表、
そして最後に全生徒による人気投票を開票し、
結果発表をして終わる。

毎年変わらない、
けれど生徒にとって特別なイベントの一つだった。

時は小一時間ほど遡り、
『生徒会室』という札の下げられた、
一階の生徒にとって
存在感の薄い場所に設置された教室でのことだ。

「おい」
体育祭、と大きくプリントされた
冊子の表紙を気怠げに捲りながら、
最奥の机に肘をついて座っている男が突然声を発した。

生徒会役員は、今日ここで体育祭の大まかな流れと、
分担された仕事の最終確認を行う予定だった。
招集を掛けたのは、今声を発した男、水原であり、
端整な顔立ちが女子に人気の生徒会長だった。

彼は一度、ずり下がった眼鏡を押し上げた。
「白川、お前一人でこれ全部やんの?」
不機嫌そうな声で水原がそう言うと、
急に呼ばれた所為もあってか
白川はその小さな肩を軽く震わせた。
暫くしてから、
彼女は怯えた様子で彼の表情を伺いながら頷いた。

「バトンを第一走者に手渡す、
とかならお前でも出来そうだけどな。
何コレ、ハードルの準備って。
素直に無理だって言えば?」

水原は依然として冊子ばかりに目を向けていて、
今にも泣き出しそうな白川の赤い顔など見ようともしない。
何も言わずに彼女は俯く。
それを心配そうに見、何度も水原の方をチラ見する男が一名。

「加藤くん、手伝ってあげようね」

突然名前を呼ばれたその男は、
思い切り椅子の上で飛び跳ね、膝を机に打ち付けた。
にっこり満面の笑みを浮かべる水原に対して、
嬉しそうな、けれど困ったような複雑な顔をして、
彼は抗議の言葉を発しようと口を開き掛ける。

「お前にいつ断る権利が与えられたんだ?」
変わらず笑顔のまま、
けれども先程よりずっと低い声で彼は言う。
加藤は言葉を詰まらせて、何度か目を泳がせた後、
正面の席に腰掛けている白川と顔を見合わせる。

「いや、……やるよ」
水原と向き合って彼がそう言った後、
正面を向くと、すでに白川は俯いていた。
「そうそう、人生何事も素直が一番」

そんなこと思ってもいないくせにそう言う水原の顔が、
新しい玩具を見つけた子供のように輝いていたのを、
役員たちは全員見逃さなかった。



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