★☆ Second Day

誰かが駆けていく音、
大勢の団体が揃って移動する音、
ひっきりなしに届いてくる人々の会話。
それらは耳障りなほど騒々しかった。

今、『生徒会室』の前を全校生徒が歩いている。
これから体育館で舞台発表が行われるからだ。
幾人かが会話で、
「先生たちの」という言葉を発していたが、
それはきっと、教師がゲストとして招かれる
三年二組の劇のことだろう。
今年の文化祭で一番注目されている。

今日も、生徒会役員は全員ここに集まって会合していた。
昨日の帰り、突然水原から招集を食らったのだ。
何人かがうんざりした顔をしていた。
しかし今回の会合には、
数名の文化祭実行委員も参加していた。

「土屋は司会。
駒村、前田、佐原は、舞台照明と左右の照明。
辻、市川、安藤、江澤は、
生徒が不調を訴えたときのための待機組。
……変だな、どうして白川と加藤が余ってる?」

各自の役割分担を言い終わると、
水原はやはり、文化祭舞台発表、
と大きくプリントされた
冊子の中身を覗き込みながら尋ねた。
その声色は、どこか楽しそうだった。

「そ、それはきっと、
私が放送係を担当しているからです」
白川は、辛うじて水原の耳に届いた、
と言っても過言ではないほど
小さな声で答えると、素早く俯いた。

その様子を見ていると、
どうしてこの女は生徒会役員の書記なんかに立候補して、
更には信任されているのだろう、
と水原は思わずにはいられない。

彼女に対して、水原は小さく「ああ」と頷くと、
今度は加藤に視線を向けた。

「で、お前は?」
「……舞台の音響係だよ、知ってるだろ」
「ああ、そういやそんなのがあったな。
おい、辻、どうせお前待機とかしていられるほど
忍耐ないだろ、お前が音響やれ」

生徒会会計である辻は、
一瞬その言葉に目をまん丸くしたが、
すぐにその表情に諦めの色を見せ、
自分に言い聞かせるように何度も頷いてから、
「判った」と口にした。

その素早い対応がお気に召したらしく、
水原は目を細めて笑った。

「んで、加藤は放送係な。
白川声小せぇから、お前も一緒にやれ」
その言葉に、
白川は居心地悪そうにその場に縮こまる。
声が小さいと言われたのもダメージとなったのだろう。

「水原は、何もやらないのか」
加藤がそう言うと、水原は鼻で小さく笑って、
「俺は生徒会長様だぜ?」と言った。

解散の合図が出され、扉から委員と役員が出て行く。
そんな中、水原は加藤の肩を力強く掴み、
その耳元に囁いた。
「お前さ、いざって時に何弱気になってんだよ」
加藤よりも数センチ上にある目が、
どこか責めるように自分を見ていた。

それは、幼なじみからの忠告と
受け取っていいのだろう。
加藤は自分の情けなさに嘲笑する。



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