- ★☆ Last Day
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その日『生徒会室』にいたのは、
水原と加藤の二人きりだった。
今日は招集を掛けなかったので、
本来ならば無人であるはずだった。
加藤は机に突っ伏して、何度かため息をついている。
水原はそんなのお構いなしに、
何故か机の中に入っていたトランプの、
スペードばかりを抜き取っていた。
「なあ加藤」
抜き取る手を止めないままに水原が声を掛ける。
ゆっくりと、心底疲れているらしい加藤が顔を向けた。
「スペードのスートは、剣を簡略化したものなんだってさ。
……スートって何か判るか?」
いや、と小さく加藤が首を振る。
やっぱりな、と呆れたように笑うと、
「絵柄マークのこと」と付け加えた。
「ハートは聖杯で、聖職者や教会や愛を。
ダイヤは貨幣で、商人や物質や経済力を。
クラブはこん棒で、農民や仕事や勇気をそれぞれ表している」
全てのスペードのカードを机の上に広げると、
水原は暫くそれを眺めていた。
「スペードは?」加藤が尋ねてくる。
「スペードは、貴族や権力や知性を表している。
まさしく俺のことだとは思わないか?
だから、俺はスペードが一番好きだよ」
生徒会役員や実行委員以外には絶対に見せない、彼の地。
それに対して白川のように怯える者もいるが、
加藤は地の水原をずっと見てきたし、
たまに人間性を疑うが嫌いではなかった。
「さしずめお前はスペードのキングか?」
「よく判ってんじゃん」
二人顔を見合わせて軽く笑うと、
タイミングを見計らったかのように放送が入った。
『これより、えっと、
文化祭最終日の展示発表、を始めます。
楽しかった文化祭も、今日で終わりとなってしまいます。
……あれ? あ、……精一杯、楽しんでください』
白川の声だった。
「加藤、お前に最後のチャンスをくれてやる。
結果発表の前、誰も来ないようにしてやるから、
今日は言え」
そう言うと、水原は席を立ち、
真っ直ぐに扉へ向かった。
『生徒会室』に一人残された加藤は、
一度拳に力を入れると、
水原の後に続いて部屋を後にした。
外に出ると、不思議なことに喧噪が身を包み込んだ。
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